ただほの「山勉」机上参加レポート 2002.2.7
 皆様初めまして、中村正帆と申します。若輩者ながら勉強会の報告(というより感想)をさせてもらいます。
                               注1:文中『〜』は勉強会中私が感銘を受けた格言・名言です。注2:文中→は私の感想、考えです。

.主催者挨拶・参加者自己紹介
 
参加者は講師の高村氏を含め20名。 まず司会の小林氏が主催者を代表して、自己紹介・HP紹介・勉強会を開いた経緯等を説明。 小林氏『今日来た人はただの参加者では終わって欲しくない。今後あなたが山形に広める義務があります。』
今まではただ小林氏に連れて行ってもらうだけだった(今もそうですが・・・)ので、この言葉に大変身の引き締まる思いがし、勉強会に対する集中力が一気に高まった。
2.STEP1「山を滑るということ」&講師紹介
 
小林氏より山を滑るということは“登ること”と“滑ること”から成り、そのどちらにも注意を払う必要があると説明された時、目からうろこが落ちた。BCというとどうしても雪崩のことばかりを考えがちだが、実際多い事故は滑走の際の立木衝突や滑落で、他にも凍傷や低体温症にも気を付けなければならないことを改めて認識した。
小林氏『でもなんといっても滑走技術の向上がBCへの第1歩です。』

もっと訓練せねばとあらためて感じる。
 続いて講師紹介。高村氏はヒマラヤの経験も多数踏まれている方ということを知り少しびびる。
勉強会の導入に際し、高村氏はいくつかのtopicsに触れたが特に以下の3点が強烈に印象に残っている。
大原則『山では人は死にます。』『どんな初心者でもベテランでも危険は同じです。』
『だからこそ経験をつんで知識を蓄積し雪崩を回避する“カン”を養うことが大切です。また考えなくてもとっさに行える技術を身につけることも重要です。』
→ 日本では交通事故で年間1万人死亡する。つまり道を歩いたり車に乗ったりすれば、1/10000の確率で死ぬ。私はこのことを普段ほとんど意識していない。山を滑ることが交通事故と比べて死亡のリスクが高いか低いかはわからないが、山を滑る際も自分自身の死をイメージしたことはない、というよりは現実感を持ってイメージ出来ない。私は交通事故でも山でも、“死”を想起させるような切迫した状況を経験したことがないので、意識出来ないしイメージ出来ないのだと思う。山での大きな事故を経験してる高村氏(これに関しては後ほど出てきます)だからこそ、深くそして重い言葉になると感じた。
 
そして高村氏は続けた。
高村氏『だけど山を登ったり滑るのは楽しい。』
やっぱり楽しまないとね!! そうです。滑る勉強会なんだもん。
3.STEP2「雪崩について」
 
続いて本日のメインテーマである雪崩について高村氏より解説。
・雪崩→雪のくっつき具合による *例えば新雪はカドがとがっているので互いの結合が弱い。
・雪は時間や温度により変化する:新雪→しまり雪→ざらめ雪→霜ざらめ雪
・雪は変化するもの→色々な層を形成→弱層を形成 *この弱層が雪崩発生に大きく関与!!
・弱層形成に関与する雪の結晶:新雪、表面霜、ざらめ雪、霜ざらめ雪、あられ
高村氏『つまり雪崩を回避するには、弱層形成の有無や弱層形成に関与する雪の結晶が判断できれば良い』
 上記の他にも雪崩の分類要素と区分名、雪崩の起こりやすい地形、各結晶の特徴、弱層形成に寄与する気象条件、圧密と燒結等の解説があった。
よし訓練して結晶博士になってやる。
4.STEP3「雪崩からの回避法」
 
では雪崩を回避するためには具体的にはどうしたら良いのか・・高村氏よりA.弱層テスト、B.地形の2点に関してお話があった。 A.弱層テスト
 高村氏が主に行っているのはハンドテストやシャベルテストだが、力のかけ具合などによりどうしても主観的になってしまうそうだ。ただ簡便でこれらのテストで実際問題になったことはあまりないとのこと。
高村氏『どの方法が良いか自分たちで模索するといいですね。』

B.地形
・雪崩やすいところを避ける→沢筋
・少しでも高いところを選んで歩く
・滑る時もなるべく尾根筋を選ぶ
・木の生えている斜面は安全→ウソ:どんなところでも雪崩は起きる
高村氏『仰角20度までは安全といわれているが、雪があって斜度が1度でもあれば雪崩は起きます。』
→実際高村氏のお仲間が斜度のほとんどないところで雪崩に巻き込まれ、顔の上にたった15cmの雪があっただけで、お亡くなりになられたとのこと。
『雪崩を起こさない工夫を常に考えること。』
『いっぱい情報を頭に入れておくこと。いざというときに思い出して必ず役立ちます。』

でもやっぱり沢滑るの楽しいし・・・スキーヤーズジレンマですな。

5.STEP X「高村氏が経験した雪崩事故」
 
高村氏は「非常に恥ずかしい体験」と前置きし、ご自身も当事者の一人として経験された平成12年3月北アルプス大日岳で学生2名が死亡した雪崩事故について話し始めた。(以下高村氏談)
 登山研修中に雪崩に遭遇した。雪崩は2800mの大日岳山頂から20m×40m×幅400mに渡って雪が崩落した、世界でも類を見ない大規模なものだった。  その年は1月15日まで晴天が続き、その後3月初旬まで断続的に20mもの降雪があった。一般的には圧密で弱層が強い層に変化するが、その時は弱層がなくならなかったようだ。つまり深さ20mの地点に弱層が形成されていて、山頂から雪がゴソッと崩落した形だった。 残念ながら学生2名が死亡した。2人とも後になって奇跡的に発見されが、どうやら圧迫による即死だったようだ。 高村氏『その年は異常気象と呼ばれるほど雪が多かった。異常気象とは今までの記録で推測できない気象パターンを示すので、異常気象といわれる近年特に注意が必要だろう。ただ世界的に類を見ない崩落ではあったけれど、山では1000年に1度起こる自然の現象だったとも考えられる。』
雪庇のイメージがガラッと変わった 。山が割れるなんて・・・。
6.STEP4「装備について」
 
高村氏、小林氏より装備について解説。
 まず雪山の3種の神器“ビーコン” “ゾンデ棒(プローブ)” “スコップ”について。
高村氏『これら3種に神器は個人装備として持ちましょう。』
 それぞれの役割、なぜ、どんな時に必要なのかわかりやすく解説していただいた。その他、それぞれの標準装備、最新アバランチ商品、便利グッズなどの紹介をしてもらった。特にビーコンの比較表はわかりやすかった。

必要と思われるものがどんどん増えていく。でも重くなったらすべりの楽しさが・・・。またジレンマ。

7.STEP5「実際雪崩に遭遇したら」
自分が救助者の場合
 1.観察:雪崩が止まるまで良く観察する
 2.遺留品を探す:帽子や手袋の先に人間が埋まっている
手足など体の一部分が出ていないか探す
→できれば遺留品があった場所に標識や周りの木に印をつけておく
(長期捜索時に有効)
 3.安全確保・役割分担→リーダーが行う
 4.ビーコンによる探索
 5.ゾンディング:2点ゾンデ、3点ゾンデ
自分が被救助者の場合
 ・顔、特に口鼻周囲を手や腕で防御し、呼吸できる空間を確保する。
 ・埋まったら出来るだけ体を動かして空間を作る。
 ・流れに巻き込まれている最中はとにかく泳ぐ
 ・雪は吸音材→50cmの雪でもまったく聞こえなくなる
負傷者への対処
 ・低体温症:ゆっくり温める。意識のある場合を温かい飲み物を少しずつ飲ませて体の中から温める。
 ・心肺蘇生
 ・搬送:ソリ/ザックを利用しておんぶ/ツェルトでくるむ *要ロープワーク

実際に当事者になったら冷静にどのくらいのことができるのだろう。常日頃より練習しなければ。でも雪崩に巻かれている訓練はできないな(笑)
8.最後に
 
あっという間に時間がたち、会場の閉館時間が迫ってきたため21時20分に閉会となった。参加者全員がまだまだ知りたいこと、聞きたいことが沢山あるといった雰囲気だったが、その分次回の雪上勉強会への期待が高まった感じがした。

 
以上大変稚拙なレポートを最後まで読んでくださってありがとうございます。
 講師の高村さん、司会の小林君、七横会会長の浅岡さんをはじめとする七横会の皆様、参加者の皆様、本当に有意義な時間(その後のドリンクセッションも含めて)をありがとうございました。雪上勉強会でもよろしくお願い致します。また先日の机上勉強会に参加されなかった方も、雪上勉強会でお会いできることを楽しみにしております。